高尾山と、とろろそばのこと
次の休みに、高尾山に行こうと思っている。
山に登りたいというより、「下山後に蕎麦を食べたい」という気持ちの方が、もしかすると強いかもしれない。
なんでそんな気分かというと、最近ちょっと、都会の暮らしに疲れてきたからだ。
もちろん、東京の生活は便利だ。電車はいっぱい走ってるし、コンビニもあるし、夜でも明るいし。
それはそれで気に入ってるんだけど、なんとなく、「土の匂い」とか「木の影」とか、
そういうものに触れたくなった。
人間、たまにはアスファルト以外のものを踏まないと、心の筋肉が固くなるような気がする。
そんなわけで、ふと思い出したのが高尾山だった。
電車に乗って新宿を出て、立川を過ぎ、八王子あたりまで来ると、空を覆い隠していた高層ビルは影を潜め、車窓の景色に少しずつ緑が増えてくる。
その感じがもうすでに、ちょっとした旅だ。
高尾山は、都心から電車で1時間くらい。わりとメジャーな山だ。
初心者でも登れるし、ケーブルカーもあるから、気合いを入れなくても行ける。
気軽に“登山した気分”になれる、ちょうどいい山である。
でも、私はたぶん、山を登りに行くんじゃない。
目的は――蕎麦だ。
高尾山のふもとには、「高橋家」や「栄茶屋」「つたや」など、老舗のお蕎麦屋さんが並んでいる。
なかでも「高橋家」のとろろそばは、特別感がある。
冷たいそばに、ふわっと乗ったとろろ。
箸で持ち上げると、ちょうどいい具合にぬるっと絡んできて、ずずっと吸い込めば、冷たさとコシと風味がいっぺんにやってくる。
その瞬間、昔どこかで食べた味を思い出した気がして、思わず「うまっ…」と声が出た。
そして私は思ったのだ。
「あ、今、口の中が完全に蕎麦になった」と。
他のお店もどれもハズレがなくて、自然薯や天ぷら、山菜なんかをのせたそばが、それぞれの個性で迎えてくれる。
ああ、あの道沿いの蕎麦屋たち、思い出しただけでお腹が空いてくる。
電車で行くか、バイクで行くかはまだ決めていない。
電車ならのんびり座って行けるし、バイクなら気ままに風を感じながら走れる。
どちらにしても、着いてちょっと山道を歩いて汗をかいて、
そのあとにすする冷たいとろろそばのうまさは、たぶん格別だ。
都会の喧騒もいいけど、たまには自然と、そばの香りに包まれて、
「はー、生き返る〜」とか言いながらのんびりしてみたい。
次の休みは、たぶんそんな日になる。
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