第3章:その優しさは
📲 X 投稿(翔太のアカウントより)
彼女が笑ったのは久しぶり。
光が強すぎて、影ができなかった。
#無感情な女 #闇かわ #Xだけの真実
📸《画像》:白いブラウスを着た沙羅が、微笑のような表情で窓辺に立っている。
目の焦点は合っておらず、頬は青白い。どこか“人形のよう”な雰囲気。
翔太がその写真を投稿したのは深夜2時。
朝になる前に、3万以上のいいねがついていた。
リポストされた数は1万を超え、まとめ系のアカウントがすぐに引用する。
「これマジ?加工じゃなくてガチ?」
「無表情系インフルエンサーって、ここまで来たんか…」
「誰かこの子のこと知ってる?」
「目が……生きてないのがリアルすぎて怖い」
「この子、もう人間じゃない感じがする」
沙羅は、投稿を見ていた。
それが“自分の顔”だとわかっていても、どこか他人事のようだった。
(この笑顔、撮ったとき笑ってたっけ……?)
窓辺で撮影したのは覚えている。
でも、あのとき自分は笑っただろうか。
表情の作り方が、最近よくわからなくなる。
翔太は「いいよ、今の笑顔」と言った。だから、そうなのかもしれない。
その日の夜、翔太が言った。
「案件、月10万いきそう。マジで生活できるな」
「……私、なにかに使われてるのかな」
「なに言ってんの、使われてるとかじゃないって。お前がいるから成立してんだよ」
翔太はそう言って、沙羅の肩を軽く抱いた。
優しかった。たぶん、演技ではない。
でも、その言葉の中に、どうしても“金の匂い”がついて回る。
シャワーを浴びたあと、沙羅は鏡を見た。
水滴で曇ったガラス越しに、いつもと少し違う自分の顔があった。
(あれ……?)
一瞬、目がずれていた気がした。
肌のトーンが白すぎる。歯が少し……いや、違う。
もう一度まばたきをしたら、いつもの顔に戻っていた。
📺 YouTubeまとめ動画(サムネイル)
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💬 コメント欄
– 「加工じゃなくてマジで病んでるやつだろ」
– 「最後の写真、なんか顔ゆがんでない?」
– 「うちの鏡で見たら、ちょっと口が動いてた…気がするんだけど」
– 「この人、生きてるの?」
布団の中でその動画を見ていた沙羅は、画面を閉じた。
誰かに“見られている”という感覚が、皮膚の上に乗っているようだった。
(これは私じゃない……でも、私でもある)
カーテンの隙間から、誰かが覗いている気がした。
足音も、呼吸も、誰もいないのに“誰かが”いる気がした。
それでも、翔太の声が聞こえると、少しホッとする自分がいた。
優しい声だった。
その優しさが、何でできているのかなんて、今はどうでもよかった。
その夜、沙羅の投稿に、ひとつだけ妙なコメントがついた。
「さわらないで、って言ってるのに」
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